第13話 私の名刀

執筆者 : 野村 泰久
今回の第十三話は「私の名刀」と題して、名古屋市にお住まいの野村泰久さんにご執筆いただきました。

 私は子供の頃から「光る鉄」には何故か惹かれるものを感じ、鉄道のレールや台所の流し台、磨かれた機械部品などには、ついつい見とれてしまう子供でした。 大学では機械工学を専攻し、会社に入ってからは発電所の蒸気タービンの試運転業務に就き、平成5年に名古屋に転勤して来るまでは、国内や海外の発電所の現場で仕事をして きましたが、今は各地の現場に行くことも無くなり、名古屋に腰を落ち着けて、この地区の発電所関係の仕事をしております。

 当然日本刀も昔から博物館では興味を持って見ていましたが、当時はまだまだ単にガラス越しに「光る鉄」を見ていただけでした。 そんな8,9年前のある日、ある刀剣展示会で話し掛けられた方に、刀剣の魅力について少し教えてもらいました。 その後、せっかく歴史ある尾張名古屋に住んでいるのだからと、刀剣について少し勉強してみることにしました。

 刀剣の本を読んだり鑑賞会で実際にお刀を拝見したりと、自分では勉強をしているつもりでも、知れば知るほど刀剣は奥が深くて、また少し時間がたてばすぐに忘れてしまったりと、なかなか思うように知識が溜まっていきません。 また刀剣を知るには、その製作当時の時代背景も知る必要もあるため、日本の歴史も勉強しなければならず、理系出身の私にとっては四苦八苦するばかりです。

 しかしながら詳しい刀剣の知識が無くとも、実際手に持ってじっくり鑑賞したりしていると、今まで単に「光る鉄」として見てきた刀剣も、実は一振一振に個性があり、その姿や地の模様、光りかた、手に伝わる重量バランス等々実に様々であり、あらためて刀剣とはとても美しいものだということが良くわかりました。

 特に刃身を光に透かして見たときの刃紋は、太陽が西に少し傾いて雲に隠れた時に雲の縁が金色に輝く、まるでそんな感じでしょうか。 とても美しいものです。 今まで見えなかった刃中の刃紋が、光に透かして浮き出てきた時には、さらに美しく、鳥肌が立つ思いです。

 また本来は硬い鉄で出来ているのですが、見たところ柔らかそうに見える良く練れた地金もあり、非常に感銘します。 姿についても、武器としては当然なのですが、刃の鋭利さや切っ先の鋭さも、刀剣の美しさの一つと思います。

 そんな訳で、本来刀剣鑑賞にはその刀剣の作者や製作年代、時代背景等々を知っていればより良いかもしれませんし、「これは有名な作者の刀剣ですよ」と言われて鑑賞したほうが、「なるほど」と思うかもしれません。 ですがそれ等を知らなくとも、持った瞬間に「これは美しい」と思うお刀が私にとっては「名刀」と思っておりますし、美しいと思ったお刀が有名な作者である場合が多々あるようになってきました。(少しは勉強の成果が出てきたか?)

 これからも鑑賞会では「名刀」に出会って、美しさを堪能したいと思っております。 ただ、入札鑑定で「時代違い」は無いように、またもっと刀剣鑑賞を楽しむために、そこそこの勉強も大事なので、これからも努力していきます。

名古屋支部 野村 泰久