第9話 私と刀剣・刀装具

執筆者 : 對馬 一徳
今回の第九話は「私と刀剣・刀装具」と題して、安城市にお住まいの 對馬 一徳さんにご執筆いただきました。


 初めて名古屋支部の研究会に参加したのは、昭和61年の秋。 子供の頃から父が刀の手入れをしている様子を見ているうちに、いつか刀剣を趣味とすることを自然なことと受けとめていたせいか、父を通じて加藤現支部長をご紹介いただいた機会に研究会に参加するようになりました。

 最初は刀剣に関する知識が全くないまま、先輩会員の皆さんの真似をして、現在と同じ会場でただ刀を手に取り眺めるだけでした。 数回出席するうちに加藤支部長から「古刀か新刀だけでもいいから」とお声を掛けていただき、恐る恐る初めて入札をしました。 当然何も判るわけでなく、五振の刀を順番に手に取り、あてずっぽうに札を入れ、解説を伺うだけで、毎回刀剣の難しさを実感していました。

 その後一年ほどして仕事の都合で東京に転勤となり、東京でも本部の研究会はじめ複数の刀剣研究会に参加しました。 毎月鑑定刀だけでも十数本の刀を拝見し、講師の先生方の解説を伺うわけですが、相変わらず判らないままで入札を尻込みするような状態でした。 そんな折、ある研究会で刀の鑑賞、入札の合間に刀装具の鑑賞、解説が行われており、鐔や三処など刀装具に興味を持つようになりました。

 しばらくするうちに講師の方から刀装具の研究会に誘われ、刀装具を専門に研究、収集する先生や先輩と知遇を得て、積極的に勉強するようになりました。 諸先輩方のお宅に伺ってご所蔵の数々の名品を拝見し、見所を教えていただくうちに、鑑賞の方法や作品と向き合う姿勢、態度を学びました。 そのうちに作品を鑑賞する方法がおぼろげながら身についたのか、いつのまにか未熟ながら刀剣もそれなりに判別し、積極的に入札できるようになりました。 いま振り返ると造形や技法が多岐にわたる刀装具を勉強したことが、結果として同じ美術品である刀剣を鑑賞する際に役立ったように感じています。

 刀剣、刀装具は、その作品が生み出された時から幾星霜を重ねて今日まで伝承された貴重な日本の文化遺産です。 一振りの刀、一枚の鐔から、時空を超越して日本人が歩んだ歴史や精神を感じ取ることができます。 そして今日に至るまでの長い間にわたって、刀剣、刀装具の魅力に惹かれた多くの先人が鑑賞眼を研鑽し、名品、傑作といわれる作品を峻別してきました。

 広く刀剣の研究会で行われている入札鑑定は、鑑賞眼の向上の方法として、古来より今日まで長く伝承されてきました。 出題された刀剣の姿、地金、刃紋などのディテールを見極めて、時代や作風から刀工を特定して札を入れます。 結果として当りや同然の札を取るのはもちろん大切ですが、それと同時に作品の作位や品格、コンディションなどを評価し、その刀の美術品としての力を総合的に判断することが、鑑賞眼を向上させることとなり、刀剣を鑑賞する豊かな精神を育むことにつながります。

 先人達の磨き抜かれた鑑賞眼に学び、見識を高めるためには、同好の方々と一緒に研究会に参加して、レベルの高い作品を手に取って勉 強をすることが何よりの近道です。 毎回出題される鑑定刀に思いを巡らせ、当たっても外れても一喜一憂せず、講師の先生方の解説に耳を傾け、未熟な自分の眼を磨いていくことは私にとってまさしく充実のひと時です。 今後も名古屋支部の会員の皆さんと共に楽しみながら勉強し、刀剣の魅力を味わい、後進に伝えることを目標に生涯の趣味として楽しんでいく所存です。

「桐蕨文透鐔」 無銘 尾張 「桐蕨文透鐔」 無銘 尾張
「桐蕨文透鐔」 無銘 尾張
丸形 鉄地 地透 82,0×82,0×5,0
「三ツ浦透鐔」 無銘 林重光 「三ツ浦透鐔」 無銘 林重光
「三ツ浦透鐔」 無銘 林重光
竪丸形 鉄地 地透
「菊花図鐔」 針書銘 埋忠寿斎 「菊花図鐔」 針書銘 埋忠寿斎
「菊花図鐔」 針書銘 埋忠寿斎
竪丸形 赤銅魚子地 高彫 金色絵 金覆輪 60,5×51,0×4,0
「雉子図小柄」 銘 光乗作 光美(花押) 「雉子図小柄」 銘 光乗作 光美(花押)
「雉子図小柄」 銘 光乗作 光美(花押)
赤銅魚子地 高彫色絵 裏哺金 96,0×13,0×3,5

名古屋支部 對馬 一徳