第4話 綱広との出会い

執筆者 : 加耒 敏幸
 今回の第四話は「綱広との出会い」と題して、豊田市在住の加耒(かく)敏幸さんにお願いし、ご自慢のお刀について執筆していただきました。

 昭和六十二年に腰を痛め好きな剣道が出来なくなってしまい、何か趣味はないものかと思っていましたところ、ふとしたことから錆身の銘のない脇差を戴いた。 全くと言っていい程私には刀剣の知識はありませんので、これは古い時代の名刀かもしれないと内心思っていました。 茎は錆てボコボコだし何か白い筋のようなものが入って刃文も小さく凸凹でしっかりと錆がついているがキズがすくないことからこれは良いものを戴いたと喜んでいたのです。

 平成七年に縁あってこの会に入会させていただき刀剣の勉強を始めたのですが、鑑定に出された名刀を見てビックリ仰天しました。 茎は昨日造られたように鑢が切られ刀身には一点の割れやキズもなくましてや錆など付いてはいませんでした。 電球の明かりにすかして刀身を見ると、そこには全く別の世界がありました。沸(にえ)、匂い、映りと言ったこれまで視覚したことのない世界がそこにはあったのです。

 もう刀の魅力に引き込まれてしまい何時も頭から離れることのないものとなったのです。それからすでに会員暦11年が過ぎ去ろうとしておりますが、先輩諸氏のご教示にも拘らず一向に鑑識眼が進まず『入札鑑定』の点数も百点 満点中の30点台で低迷致しております。

 先輩諸氏曰く『時代というちに名刀に出会って正しい知識を得て実物で鑑識眼を養うことの大切さをこの年になって痛感しています。 でもまあ趣味の世界ですから自分なりに楽しむことが大切ですね。 私が師と仰ぐ先輩は次の三点を忠告してくれました。

 第一
  錆て腐っていないもので茎(なかご)のしっかりした重刀クラスの正真刀をみること。
 第二
  市井(人、家の多いところ)の刀剣に名刀はないと思うこと。
 第三
  常に知識を博め欲を持って刀剣を鑑ないこと。

 言うことは簡単ですがその意味を知って守っていくことは大変です。 正しい刀剣の知識を得るためには守って行かねばならない ことだと思っております。

刀 銘 相州住綱広 天文九年 庚子八月日

 さて、書き出しの脇差の件ですが数打ちの加州物と判断するに至って処分いたしました。

 この11年間数多くの刀が私の元を訪ねては去っていきました。 その中で残っているのが次の刀一口です。

刀、銘
相州住綱広
天文九年 庚子八月日

長さ二尺四寸一分
反り七分
鎬造り
三ッ棟
皆焼(ひたつら)刃
表裏彫り有

 この刀との出会いを書き出すと長くなるのでやめておきますが、私にとっては過ぎたる名刀と自負しております。 刀剣趣味はすばらしいものです。全てのストレスを解消してくれるでしょう。 特に若い皆様の当会入会を希望して止みません。

名古屋支部 加耒 敏幸