第1話 尾張の脇差

執筆者 : 道木 吉種
 ご要望の多かった刀剣にまつわる自慢話、四方山話を会員の皆さんから集め、連載させていただきます。 記念すべき『第一話』は当会理事の道木(どうき)さんにお願いしました。 今後、順次会員の皆様にお願いし連載する予定です。

 先月の例会の後、加藤支部長より『自慢話を書いて呉れ。』と頼まれ、これは困った事になったと思った。 それは私にはその様な名刀を持っていないからだ。 今日まで力の範囲内で買った程度で、無理算段して刀を買ったことがない。 だから所詮高名な名刀など手に入るわけがない。 名刀はないが愛刀なら四、五本ある。尾張刀の脇差である。 人は『脇差ですか。』と云ふが、平気である。身分相応である。

 前伯耆守藤氏信高入道、この脇差は銘文が『藤原』ではなく『藤氏』銘で珍しいと思ってゐる。 長尺は一尺六寸五分、その他、豊後守源正全、越中守藤原貞幸、等々、暇な時など穴のあく程眺めてゐる。 心の癒しになるから不思議だ。これも日本刀に魅せられた者の幸せだとおもふ。 刀剣の趣味によって人生の楽しみをを多く味わってゐる。

 刀剣会の名古屋支部に入会したのは、昔、名鉄百貨店にて『剣美展』と云ふ展覧会があり見に行った折、其の陳列されていた名刀のすばらしさに感動し、その場で入会の手続きをした。 その会場の受付の人が四日市の『村正』研究家、稲垣善次氏であった。 この人は研究会の席でも大声で『静かにしろ!』と、叱る事が平気な気骨のある人であった。 今は故人となられたが、この様な人は現在の会員の中には居ない。 社会情勢のなせる業か。

道木さん製作の『会員募集』ポスター
道木さん製作の『会員募集』ポスター

 支部長も私の入会したときは、岡島太十氏であった。 其後、安藤猛氏、山田幹高氏、いずれも故人、現在の支部長は加藤博司氏である。 毎月一回、予定は第二日曜日に鑑賞会をかね入札鑑定会を行っている。 よくぞ毎回名刀が集まるものと感激してゐる。 これも支部長始め三役の方々のお骨折りのお陰と、毎月の例会を楽しみにしてゐる。

 日本刀は人類興亡と共に一千年の歴史が有る。そのロマンを求め、姿の美しさ鉄と白き刃文の変化の美に心酔し、手に取って拝見できる事は望外の喜びである。 (財)日本美術刀剣保存協会名古屋支部の益々の発展と同好の志の多く入会される事を祈念して、乾杯。

名古屋支部 道木 吉種


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